地域社会・生活・環境

農山漁村地域における生活の安定に資するべく、地域社会・環境等に関わる様々な取組みについて調査・研究を行っています。

生産者の食関連リスク補償ニーズ

発表者 渡辺 靖仁
発表誌 共済総合研究 第57号

概要

目次
  1. はじめに
  2. アンケート調査結果の概要
  3. ターゲットの手がかり:保険料負担意向への影響要因
  4. 加入保険料限度額とリスクパターン
  5. 食関連リスク補償の検討の背景:再補足
  6. おわりに

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1.課題

2009年に提案したフードチェイン一貫補償保険の考えは、消費者へのアンケート調査と食関連事業体への現地調査にもとづいていた。本稿では、小規模農家を含む生産者にもこの補償ニーズの動向を探るアンケート調査を行い、その結果を追加分析して本保険の意義と可能性を再検討した。

2.方法

調査対象者は、全国から選んだ、農産物を販売する農家685世帯である。実施は2009年12月に、WEBを用いた自己記入方式で行った。

3.結果

  • 生産者リスクについては(1)土作りにまつわる技術・情報管理・パテント系リスク(2)生産・加工・販売にまつわる諸施設に関するリスク(3)食品安全・物流・コンタミ系リスク(4)PL事故とブランド風評のリスク(5)直接販売のリスクの5つに分けて聞いた。 結果は、どのようなリスクであっても、3〜4割のサンプルがそのリスクを意識しており、保険・共済があれば加入したいと答えた農家が1割前後は存在した。 また、許容保険料について個別のリスクを前提としない回答では、何らかの水準の金額で保険加入したいという割合は3割以上に上る。 しかも農産物の単価が高くなるほどにその割合が増える。 さらに、同じく個別のリスクを想定しない回答では、販売額が100万円以上であれば、9割前後で保険加入のニーズがあることが示されている。 このことから、食関連リスクを新たな補償分野への手がかりと考えるならば、損害系の補償ニーズとしては無視できない水準と評価した。 総じて販売額の1%が加入する保険料の上限の目安となっていることが、その市場規模の手がかりとなると考えられる。
  • 推進のターゲットを明確にするために行った樹形図系図分析では、基本的に農協シンパは高い加入意向を示した。例えば、自動車共済加入し、農協SS利用している農家で、かつ、建物保障も農協共済であれば、保険料限度額「10万円以上」が14%と全体平均の2倍となっている。 経営種目別では、果樹や花卉で高い加入意向がみられた。 農業収入240万円以下の稲作農家はワンコイン保険のレベルであった。

4.考察

本保険の意義を再度考察し、次の8点を指摘した。

  • 消費地・生産地間のコミュニケーションのひとつであり、リスクコミュニケーションのツールに加えて地域づくりの社会技術となりうる。
  • 情報創造産業を目指した、生産者と消費者の情報をリンクし、安全性の伝達とぬくもり感・手作り感という付加価値をつけた提案の可能なインフラとなりうる。
  • 回収業務の包括契約による低コスト化 と 個配技術の革新を踏まえてロジスティクスの再編につながりうる。
  • リスクコンサルからアンダーライティングのできる組織への変身ももくろむ。機械・生産設備系技術ノウハウの蓄積と指導によって、保守費用を最小にしつつ事故予防効果の向上させ、さらには保険等級検討などによるリスク管理水準の向上をめざすという、いわばアリアンツ型損保事業の展開の可能性にあふれている。
  • より高度なリスク補償を通じて生産プロセスを支援する組織に進化する。
  • 日本農業損保という重複のない個人向け商品の具備した組織となる。
  • 補償リスクの契約高を資産化して運用し、不足する資源をもとにしたビジネスに転化する。
  • 市場(経済)・社会(制度)・人間(こころ・意識)の3つの分野におけるイノベーションに寄与する。