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農業・農村・JA

農山漁村地域における生活の安定に資するべく、地域再生に対するJAをはじめとした様々な取組みについて調査・研究を行っています。

食に関するリスク補償の基礎と背景補遺

発表者 渡辺 靖仁
発表誌 共済総合研究 第56号

概要

目次
  1. はじめに
  2. フードチェイン一貫補償保険の概要(再掲)
  3. ブランド価値とリスクの論点
  4. モラルハザード抑止の論点
  5. アンケート調査による安全性への意識-自由記入欄にみる消費者・生産者の異同-
  6. 自己決定の傾向の含意
  7. おわりに

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[PDF 1.83MB]

1.課題

食品安全に関する消費者の8割に及ぶ不安感と一気に流動化したフードチェインの動向を踏まえて、2009年度末にフードチェイン一貫補償保険の考えを提案した。本稿では、この補償に関連するリスクとモラルハザード抑止などの基本的な論点を議論し、消費者に対するアンケート調査結果を追加分析して、本保険の意義と可能性を検討する。

2.方法

補償に関する論点は食品関連業者に対する現地調査による聞き取りをもとに考察した。食品安全に関する消費者の意向の追加分析では、一般消費者と医療関係従事者ならびに農家に対して行ったアンケート調査のうち、自由記入欄の記載内容を、テキストマイニングの手法を用いて頻出語と単語の係り受けの傾向を把握し、その含意を検討した。

3.結果

  • 生産者リスクについては、高品質の農産物の集出荷組合に注目し、その商流とこれに伴うさまざまなリスクを分析した。リスクは次の4つに分類した。
    (1)土作りにまつわる技術・情報管理・パテント系リスク
    (2)生産・加工・販売にまつわる諸施設に関するリスク
    (3)食品安全・物流・コンタミ系リスク
    (4)PL事故とブランド風評のリスクである。
    補償の基本は(1)生産物賠償責任条項、(2)生産物賠償責任に関する費用条項、(3)積極的ブランド保護のための費用条項、(4)輸送に係る損害の填補および損害拡大防止費用などの4つである。 ブランド価値補償については、モデルの農園が価格を予約して生産することから、この高価格農産物への保険事故による何らかの毀損の補償などによって一定カバーされることを議論した。
  • モラルハザード対策としては、 (1)保険料スキームによる方法、(2)知識・理解および食の保険加入によるリスクコミュニケーション活動への賛同度合い(3)生産工程などの詳細なエンジニアリング情報による引受割引、(4)外部認証システムなどを活用した安全対策条件付き引受制度、(5)消費者への広報活動などを通じた保険に加入できることのインセンティブの刷り込み、の5点を検討した。
  • 自由記入欄のテキストマイニングによる分析の結果を2点述べる。まず「消費者が生産者に望むこと」と「生産者が自分で留意していること」について、「安全」・「無農薬(減農薬も含む)」・<良い―安心>・などの関係から、生産者と消費者の意識の乖離はそれほどないと推察した。次に、消費者の自由記入欄では「自己」の用語が目立ち、自己決定の意識の高まりではないかと推察した。

4.今後の課題

自己決定の意識の強まりに関連して本保険の意義につき次の3つの考察を行った。第一に、このような自己決定の意識の高まりは、経済社会の相互依存関係が深化すると目だって表れるものであるから、直接取引を望む声としてのシグナリング効果を再度強調した。第二に、自己決定の傾向と当事者化を、当事者主権の運動"Nothing about us without us"と関連付け、一種の社会変動の傾向の可能性を指摘した。第三に、本保険は農協共済の関連保険会社にとって重複のないドアノック商品となりうること、本保険の推進が農協組織のよって立つ地域とその食産業の活動に貢献すること、このことが、倫理にかない、国益に沿いながらも、収支相償う事業をどのようにつくるかは、ナショナルレベルの事業規模を持つ経営にとって古典的な課題を満たす可能性があることにも言及した。