被災状況
今なお10万人近く(2016年2月10日現在)が避難生活を余儀なくされている福島県。東京電力福島第一原子力発電所の事故の影響による未曽有の複合災害から懸命な再生をめざしている。
県災害対策本部のまとめ(同日現在)によると、死者・行方不明者は3847人。全壊・半壊合わせて約9万4000戸、一部破損を加えると24万戸近い住家に被害が出た。一番多い時(2012年5月)で、16万4865人が県内外に避難した。農業分野の打撃も甚大で、農地5460ヘクタール、1万7200経営体が復旧を要した。
5年の時が経ち、各種インフラの復旧は進んだ。道半ばにも及ばない地域もあるが生活再建や、除染を中心とした環境回復は着実に進んでいる。1次産業が基幹産業である同県にとって農業の復興は、被災者の生活再建に結びつく。県によると、農地は被災面積の33%に当たる1820ヘクタールで営農再開が可能となり、被災した経営体のうち、一部再開を含め61%に当たる1万500経営体が営農を再開した。農地・農業用施設等の復旧は3180地区の76%に当たる2405地区で工事が完了した。
桃を筆頭に果樹産地のJAふくしま未来の伊達地域(旧JA伊達みらい)は、延べ3万5000人を投入し果樹55万本を丸洗いした過酷な除染作業を乗り越えてきた。特産のあんぽ柿では出荷時の全量検査体制を整え、加工再開面積を拡大、農家の負担軽減や加工品開発、地域の雇用創出のために加工・包装施設の整備に乗り出している。津波浸水と放射能汚染という二重の災害に遭った相馬地区(旧JAそうま)では、行政や大学などの研究機関、企業とも連携して除塩と除染に取り組んだ。今では県のブランド米に関する協議会を立ち上げ、栽培技術の確立や食べ方の提案、加工品開発の3本柱で復興に向け、前進を続けている。ただ、帰還困難区域や居住制限区域を抱える南相馬市の酪農家などは苦境の中にいる。
そして、県産農畜産物に対する根強い風評被害が重くのしかかる。米などで出荷時に放射能の全量検査を行うなど世界に類を見ない安全対策を講じているにもかかわらず、需給を無視した価格低下がある。震災前の価格水準は別世界と言える。さらに、被災地には忘れられる危機感が5年目にしてよりくっきりと浮かび上がってきてもいる。
(2016年3月11日)