[論説]大震災あす7年 地域「包含」の復興急務

掲載日:
2018/3/10
発行元:
日本農業新聞

あすで東日本大農災から丸7年を迎える。被災県の農業の復興は格差が広がり、まだら模様なのが実態だ。生産現場では、米生産調整の見直しなど農政不安も募る。一方で「明日」へ向け新たな取り組みも目立ってきた。創造的復興へ一層の支援が問われる。

大震災の復興期間は2020年度までの10年間。政府は11〜15年度の5年間を集中復興期間、後半5年間を復興・創生期間と位置付けている。丸7年を迎える現在は、復興・創生期の折り返し地点に立つ。

11年3月11日の大地震、巨大津波、震災に伴う福島での東京電力福島第1原子力発電所事故の“複合災害”は、前例のない大災害だ。震災時に岩手、宮城、福島の太平洋沿岸の東北3県の農林水産関係被害は2兆円を超した。農地の流失、冠水面積は約2万ヘクタール、うち震源地に近い宮城が7割を占めた。

先月亡くなった作家の石牟礼道子さん。公害問題を通じ近代化の意味を問い続け、原発事故も指弾した。石牟礼さんは91年前、偶然にも大震災と同じ3月11日に生まれた。近代化への疑念の問いは、今なお深く重い。

公助、共助、自助の三つが欠かせない。地域実態に沿った支援には、相互扶助を掲げる協同組合の出番でもあろう。先週、福島を訪れたJA全中の中家徹会長は、8日の記者会見で「復興はまだ道半ば。震災を風化させることなく引き続き支援していく」と強調した。共助の役割は重さを増す。協同組合の真価も問われる。

被災地の創造的な農業再生へ新たな動きに注目したい。

宮城県東松島市野蒜の農業生産法人「アグリードなるせ」。安部俊郎社長は「今年は本当の意味での復興の初年度、新たなスタートの年だ」と言う。中心を成すのは全国からの震災支援の関係者、企業のつながりが形となったネットワークだ。

同県名取市の「耕谷アグリサービス」は、水稲、転作受託で被災後の地域農業の維持・振興に大きな役割を果たしてきた。被災農地への綿花栽培を通じた東北コットンプロジェクトの試みは再生の輪を広げる。大友清康会長は「引き続き米の計画生産を徹底したい」と強調する。被災地は米生産調整見直しなど揺れ動く農政を注視している。今後の米価次第で復興の動きに支障が出かねない。農政リスクが復興・農業再生への妨げになってはならない。

持続可能な農業を目指し農業生産工程管理(GAP) への対応も復興を促す。福島市の「まるせい果樹園」は震災、原発事故を契機に国際水準GAPを取得。風評被害をはね返し、観光農園も兼ね売り上げを伸ばした。農水省表彰も受けた。

再生事例の共通項は、地域全体を包含した取り組みだ。地域コミュニティー復活に向け、人の結び付きを根底に据えることこそが欠かせない。それを公助、共助、自助で支えたい。