[再生への歩み 農林中金の支援](上)営農再開へ資機材助成 害虫防除や土壌改良/福島・JAそうま

掲載日:
2014/08/13
発行元:
日本農業新聞

 東日本大震災からの復旧・復興のため、農林中央金庫は2011年から復興支援プログラムを行っている。融資や出資といった金融支援だけでなく、営農再開に必要な機材の購入費助成などにも取り組む。金融以外の支援を活用し、復興の歩みを進めるJAや生産者の取り組みをまとめた。

 福島県の沿岸部にあるJAそうま管内は、津波で甚大な被害を受けた。営農再開のため、農地の除塩に効果があるという転炉石灰を散布している。農林中金は復興支援プログラム「営農再開支援」で、散布用にライムソワーの導入費用を助成した。

 「津波の直後は、地獄絵図のようだった」とJA営農企画課の高玉輝生課長は振り返る。JA管内の水田面積1万2060ヘクタールのうち4321ヘクタールが津波の被害を受けた。

 農家やJAは除塩のための土壌改良材として12年度から、製鉄の過程でできる副産物の転炉石灰を使っている。東京農業大学や鉄鋼メーカーの新日鐵住金などの協力を得て導入。12年度は試験的に1・7ヘクタール、13年度は50ヘクタール、14年度は200ヘクタールと徐々に散布面積を増やしている。

 粉状の転炉石灰を効率良く散布するために今春、JAはライムソワーを5台導入。農林中金が費用を助成した。ライムソワーを使って、今年は約20ヘクタールに散布し、稲作再開につなげた。JA総合企画部の佐藤吉徳部長は「(こうした機材など)金融以外の支援はありがたい」と話す。

 ライムソワー導入前は、転炉石灰が300キロほど入るブロードキャスターを使っていたが、散布時に粉状の転炉石灰が舞ってしまい、うまく散布できなかった。ライムソワーは転炉石灰が800キロほど入り、転炉石灰を落とすように散布でき作業効率が上がった。

 除塩作業を代行するJAの子会社、農業生産法人(株)アグリサービスそうまは、ライムソワーで9・6ヘクタールの作業を受託した。効率的に作業ができ、除塩の効果が表れたことから、同社の八巻定男代表は「水稲が生育していく姿を見ることができてうれしかった」と手応えを感じる。

 農林中金からJAに出向する小野秀世経営対策担当部長は「農林中金の支援策がどういった事例に当てはまるか、現場のニーズを聞きながら導入を進めた」と話す。

 JA管内では、稲の害虫被害も問題になっていた。東京電力福島第1原子力発電所事故の影響で作付けできない農地でカメムシが発生。1等米比率は震災前は85〜90%だったが、震災後は80%台に下がった。

 1等米比率を上げて農家の所得向上につなげるため、農林中金は今年度、水稲を作付けした全域で防除するための農薬の費用を助成することを決めた。高玉課長は「さまざまな支援があってここまで来ることができた」と話す。

 震災前の10年産の水稲作付面積は8502ヘクタール。震災のあった11年産は1690ヘクタールまで減った。除塩に加え、放射性物質の除染も行い、14年産は2387ヘクタールまで回復した。JAは今後、営農を再開できる農地を増やすのと併せて担い手育成にも力を入れる考えだ。