[私の経営]宮城県東松島市 アグリードなるせ 水稲・麦・大豆・野菜/地域の雇用創出に力

掲載日:
2014/08/05
発行元:
日本農業新聞

 宮城県東松島市野蒜の(有)アグリードなるせは、水稲・麦・大豆に野菜を組み合わせ、周年雇用を生み出している。東日本大震災後、仕事がなくなった人を雇用しながら、地域の農地を引き受け経営を拡大してきた。ジャガイモや冬ハクサイなどの導入でパート7人の周年雇用が可能になった。今後は6次産業化に取り組み、安定した所得と雇用を実現させる。

 同社は2006年、地域農業の受け皿となるような会社を目指し、14人が出資し設立した。35ヘクタールから始め、10年間で100ヘクタールを目標に経営を拡大していた。

 そこに東日本大震災が発生。同市では津波による大きな被害を受け離農する人が増えた。同社は「農地を守り地域と共に発展する経営体」を目指して設立した経緯があり、被災した農地を守り、地域の雇用の場を確保するために、水稲と大豆中心だった経営に、野菜を組み合わせていくことにした。

 12年、製菓会社のカルビーと、ジャガイモの栽培契約を結んだ。これで稲刈り前の7月下旬から8月上旬に収穫作業の仕事が生まれた。加工用ジャガイモは機械化体系が出来上がっており、大規模で取り組める。海岸近くの砂地の多い農地での栽培もできる。海岸近くの農地が急速に集まってきている同社にとって、農地を活用するのに適した作物だと判断した。さらに同年、冬場の雇用を創出するため、ハクサイの契約栽培を加工業者と始めた。12月下旬から2月いっぱいまでの間、収穫作業の仕事が生まれた。

 ジャガイモとハクサイで経営の採算が取れる見通しが立ち、震災前から栽培していた加工用キャベツや種子用大豆の選別作業なども合わせると、ほぼ周年の雇用ができる見込みになった。そこで13年の秋に、短期で雇っていたパート14人に、周年で働いてもらえるかを尋ねた。このうち7人から周年で働きたいとの希望があり、周年雇用が始まった。

 それでも年間3分の1は作業がないため、今年からカゴメと加工用の露地トマトの試験栽培を35アールで始めた。ジャガイモの収穫後で稲刈り前の8月中旬から9月中旬の収穫作業が生まれる。何人の人手が必要か、仕事は大変ではないかなど、パートの意見も聞きながら導入を検討していく。

 水稲では低コストで効率的な経営を目指す。それが乾田直播(ちょくは)と、震災前から取り組んでいたたん水直播。作業が高速化し、機械は麦や大豆でも使えるため、米生産費の多くを占める労働費と農機具費を削減できる。今年は水稲41ヘクタールのうち乾田直播を3ヘクタールで導入、将来は水稲の半分をたん水直播と乾田直播にする計画だ。社長の安部俊郎さん(57)は「3割ほど経費削減になる。その分、経費と労力を野菜に使え、雇用ができる」と試算する。

 今後は加工用施設の建設を目指す。消費者の米離れに対応し、同社の小麦を使ったパンや菓子の製造、規格外の野菜を使った商品の開発で農産物に付加価値を加え、働く場をさらにつくる。また地域の製パン店に小麦粉を提供、地域の活性化も考えている。

 同社は今年、県内で初めて子実トウモロコシの栽培を1ヘクタールで始めた。米の価格低下や、輸入に依存している飼料用トウモロコシが為替などで価格が左右されることから、国内の転作作物として未来があると判断。安い価格で地域の養鶏農家への提供を検討する。

 安部社長は「トウモロコシを鶏に供給し、その鶏の卵を加工施設で使う。鶏ふんはトウモロコシの堆肥にも使うなどして、いろいろな方法で地域の産業を活性化させたい」と意気込んでいる。

 経営概況
■販売高=約1億円
■規模=水稲41ヘクタール、転作作物の大豆、麦、ジャガイモ、子実トウモロコシなど33ヘクタール、キャベツ、ハクサイ、トマトなどの野菜4・6ヘクタール
■労働力=社員7人(うち研修生1人)、周年パート7人