[トップJAインタビュー]福島・JAそうま 内藤一組合長/若い人が戻れる環境に 営農維持へ法人設立 介護の施設充実を検討

掲載日:
2013/11/12
発行元:
日本農業新聞

 福島県のJAそうま管内は、東日本大震災で津波と東京電力福島第1原子力発電所事故の被害を受けた。今も除塩、放射性物質の除染など農業復興に取り組む一方、米の作付け制限や風評被害、避難生活など困難な状況が続いている。地域農業や組合員の暮らしをJAがどう支えていくのか。内藤一組合長に思いを聞いた。

 ――農地の復旧状況はどうですか。

 管内の水田面積1万2000ヘクタールのうち、いまだに作付けできない水田が約8割になる。津波被害分が3850ヘクタール、原発事故による制限・見送りが5439ヘクタールに上る。来年度は復旧を大きく進めたいが、除塩や除染が進まず、見通しが立たない状況だ。

 特に除染は課題が山積している。まず表土を剥いだ土の仮置き場が確保できていない。避難区域は国が、それ以外は市町村が除染作業を行うが、ともに復興計画より大幅に遅れている。南相馬市は必要な作業員が数千人ともいわれており、要員確保が急務だ。

 しかし、若い人の多くは各地に避難している。JA管外への避難者は、管内人口12万人の2割強に上る。家族が避難先ごとに分かれてばらばらになったり、地域によっては農作業が制限されたりしており、農家の心情はつらさを増している。後継者からは「JAが将来に向けた営農ビジョンを出してほしい」と要望されるが、方向を出せる状況には残念ながらない。

 ――震災から7カ月後にJA子会社の農業生産法人・(株)JAあぐりサービスそうまを設立しました。

 津波被災田120ヘクタールの除塩や牧草地18ヘクタールの除染事業を行政から受託している。水稲16ヘクタール、野菜2ヘクタールも経営する。担い手不足が加速する中、将来は地域の担い手、被災地にできた各地の復興組合と共にアグリサービスも地域を支える柱に育てたい。企業誘致などと併せて若い人が戻れる環境づくりが必要だ。

 ――風評被害への対応も課題です。

 JAは独自に放射性物質を検査し、農産物の安全・安心対策を強化している。しかし、風評被害は根深い。市場価格が全般に高い時は福島産を買うが、安い時は敬遠する傾向がある。畜産は繁殖和牛農家が震災後は8割減って63戸となりブランド「飯舘牛」も壊滅的な被害を受けた。

 明るい話題もある。ニラやセリなどは市場から今も高い評価を受けている。今後はブランド化を管内一体で進めていきたい。県内の枝肉共励会では管内の牛が最優秀となり、値が取れる牛も一部で出てきた。丹精したおいしい農産物を自信を持って作っていることを理解してほしい。

 ――震災を通して、JAの底力も見せられましたね。

 東京電力への損害賠償請求の専門部署「原発損害賠償・補償対策班」を設け、JAグループ対策協議会と連携しながら交渉力を発揮してきた。農家組合員の財産を守る取り組みで、地元金融機関としても信頼を得てきた。

 ――介護事業も重要性が増しています。

 避難や仮設暮らしを余儀なくされ、体調を崩した人が多く、介護サービスを受ける人は確実に増えている。しかし介護ヘルパーなど人員は不足しており、施設への入居を順番待ちしている人が相当数いる。介護への対応は今後、JA最大テーマの一つとなる。100歳プロジェクト活動の延長線で、ショートステイや介護できる施設の確保を検討しなければならない。

JAの概況  福島県の北東部(浜通り北部)に位置する。相馬市、南相馬市、新地町、飯舘村の2市1町1村にまたがる7JAの広域合併として1996年に誕生した。本店は南相馬市。沿岸部から阿武隈山間部まで稲作、和牛繁殖、園芸と多様な農業を展開している。

▼組合員数=2万450人(正組合員1万5226人)
▼貯金残高=1645億円
▼貸出金残高=223億円
▼長期共済保有高=6518億円
▼購買品供給高=25億円
▼販売取扱高=27億円
▼正職員数=274人
(2013年2月末現在)