[大地とともに 積み重なる課題](3) 大型法人 先頭に 宮城県東松島市/営農と雇用手探り

掲載日:
2014/03/13
発行元:
日本農業新聞

 東日本大震災による宮城県内の被災地では、農地の復旧を受けて、大型の農業法人が続々と立ち上がっている。東松島市大曲の(株)ぱるファーム大曲もその一つ。大震災翌年の2012年12月に、被災者4人で設立した。

 経営面積は初年度(13年度)の22ヘクタールから、15年度には100ヘクタールへと一気に増やす。社長の三浦吉郎さん(66)は「農地を引き受ける以上、地域活性化に貢献しなければ」と、地域農業の再生と雇用を生む経営を目指す。

 大曲地域はもともと水稲と園芸の複合経営が盛んな地域。しかし、165戸の農家が耕作していた195ヘクタール全てが津波の被害を受けた。国の復興支援が集団に限られると知ってからは、引退を決断する農家が相次いだ。復旧する農地を誰が担うのか――。

 農地を託されたのが、ぱるファーム大曲の前身で、14人の生産者で40ヘクタールの転作を請け負っていた大曲生産組合だ。法人化の手続きと同時に、経営目標を仲間やJAいしのまきと作った。水稲100ヘクタール、麦・大豆50ヘクタールの他、経営を安定させるためハウストマト50アール、露地野菜2・3ヘクタールも盛り込んだ。16年度の販売額は2億1600万円を見込む。雇用は職員2人、パートは年間作業日数延べ6000日を計画。規模も大きくなり経営手腕を今まで以上に問われることになる。

 1年目は、農地復旧の遅れや、被災農地への客土が作物に十分なじまず野菜の収量低下を招くなど課題もあった。

 同JA管内では、震災後に17の法人が立ち上がった。松川勝彦営農企画課長は「計画通りに経営が成り立つかが課題。生産物ができ、販売も軌道に乗らない限り、地域の人も雇用できない」とみて、法人支援を強める構えだ。

 一方で、地域づくりを経営の柱に据える法人も出てきた。東松島市野蒜のアグリードなるせは、受託面積の急増を受けて、30代を中心に6人を雇用、ハクサイの契約栽培など冬場の仕事を導入した。仮設住宅に暮らす女性たちには、種子大豆の手選別作業など働く機会を提供。10月には加工場建設に着工し、地場産小麦でバームクーヘン作りを目指す。

 さらに、地域住民を招いての収穫祭、デイサービスの運営など、法人が柱となった地域づくりを始めている。社長の安部俊郎さん(56)は「利益を追求するだけでは大きな忘れ物をしたような気がする。新たな結いの精神を何とか実現していきたい」として、高台に移転した住民も巻き込んだ地域づくりを構想する。

メモ 岩手、宮城、福島各県で津波被害に遭った農業経営体9370のうち、営農を再開したのは4840(農水省調べ、2月1日現在)で52%にとどまる。県別では、岩手260(54%)、宮城3910(65%)、福島670(24%、実証栽培を含む)となっている。