[大地とともに 東日本大震災6カ月](7)農地除染/技術と資金確保早く

掲載日:
2011/09/21
発行元:
日本農業新聞

 「おお、下がった」

 福島県南相馬市の田で12日行われた除染試験の結果に、集まった農家やJA職員らからどよめきが起こった。

 小型のパワーショベルで表土5センチを削り取り、その下25センチ分を掘り出した所に埋め戻し、掘り出した土をかぶせ入れる「反転耕」。線量計をかざすと、作業前に1時間当たり0.22マイクロシーベルトを示していた放射線量は3分の1の同0.08マイクロシーベルトに低下した。

 「緊急時避難準備区域」内にある同市太田地区の奥村健郎さん(54)の田で試験した。同市では今年、東京電力福島第1原子力発電所の事故の影響で全面的に水稲の作付けを中止。田には雑草が生い茂る。しびれを切らした住民代表らが農地除染に動き始めた。地元のJAそうまも協力。同市出身で日本原子力研究開発機構の専門家、天野治さん(60)が指導した。11月ごろには秋の耕起に合わせて地区内の一斉除染を計画している。

 「国が動くのを待ってたら来年の作付けに間に合わない」。奥村さんは語気を強めた。

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 農水省は14日、5月下旬から行ってきた国の実証試験の結果を受けて農地除染の考え方を公表した。土壌中の放射性セシウム濃度が稲の作付け制限の基準(1キロ当たり5000ベクレル)以上の農地8300ヘクタールは国が主体となって表土の削り取りなどで5000ベクレル未満に引き下げる目標を掲げた。一方で奥村さんの田のように5000ベクレル未満の農地の除染については、必要に応じて「反転耕」の適用を勧めるだけで、費用負担の在り方を明確にしていない。

 農水省によると、5000ベクレル未満〜1000ベクレル以上の農地は福島県内だけで5万3300ヘクタールと広大だ。南相馬市の桜井勝延市長は「農地土壌では米の5000ベクレルという基準しかない。ほかの作物では何の基準もない中で市が独自に除染に取り組むのは厳しい」と、5000ベクレル未満の農地の除染も含めた万全の費用負担と早急な稲作以外の作付け基準作りを国に求めている。

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 鹿野道彦農相は「除染対策は野田内閣の最重要課題」と意気込みを見せるが、5000ベクレル以上の農地の除染についても国は本格的な開始時期をいまだに示していない。

 国の実証試験では、表土を3、4センチ削り取ることで土壌中の放射性セシウムは75〜97%低下した。しかし除染の対象農地8300ヘクタールを4センチ削ると、取り除いた土の量はそれだけで300万トン以上に達する。その土から放射性セシウムを分離するのは「現時点で難しい」(農林水産技術会議事務局)。

 同省はコンクリート製容器による一時保管を検討しているが、1トンの土を入れる容器を造る経費は10万円前後になるという。300万トン分なら、容器だけで3000億円が必要になる計算だ。

 除染の実行には、早期の技術開発とともに、国による十分な予算の確保が求められている。