地域復興へ陣頭に立つ/被災3JA組合長に聞く

掲載日:
2012/03/12
発行元:
日本農業新聞

 東日本大震災から1年。津波や東京電力福島第1原子力発電所の事故で一変した地域の復興へ、これまでいかに立ち向かい、これから何を目指すのか。被災地のJA組合長に聞いた。

・農業者の意欲保つ 復旧の計画を長期化

 宮城・JAいしのまき 石川 壽一組合長

 JA管内は津波で、水田1万2000ヘクタールのうち3割に当たる約3800ヘクタールが被害を受けました。

 被災地はまるで終戦後のようでしたが、逆に考えれば、これ以上悪くなることはないわけです。数年すれば、大震災以前の農業産出額までは戻せると信じました。これを実現するためには何より、被災農家のモチベーションを保たなければなりません。どこの水田がいつまでに復旧するのかを、農家に明確に示す必要がありました。

 昨年5月末、JA内に復興対策プロジェクト会議を 立ち上げました。県と協力し、3年で水田をほぼ復旧する計画を一筆ごとに細かく策定。集落ごとに説明し、農家に示しました。

 計画では2012〜14年度にかけ、毎年度500〜1000ヘクタールずつ復旧します。被災農家に先の見通しを示すことができました。

 これまでに1000ヘクタールの除塩が終わり、12年度に水稲を作付けできるようになります。水田復旧は予想以上の速さで進んでいます。

 問題は 園芸施設の復興です。園芸ハウスは 9・6ヘクタールが倒壊・流出しましたが、復興は思うように進みません。国の支援が不十分だからです。

 例えば、「使い勝手が良く、全額国庫から」とのうたい文句で昨年11月に計上された東日本大震災復興交付金です。実際には要件があり過ぎて使いにくいです。

 石巻市では、被災農家が内陸部に園芸団地をつくる構想がありますが、農作業に使うコンテナなどの消耗品や、地代は交付金の対象にならないため、被災農家が自費で取得することになります。津波で何もかも失った農家が、さらに借金を抱えることになります。

 国には、十分な額の交付金を毎年確保することを望みます。ただ、国だけに頼るつもりはなく、JAも農機などの固定資産を取得して農家にリースするなどの手を考えるべきかもしれません。

 大震災当時、私は非常勤理事でした。自宅は海岸から10キロほど離れており、被害はありませんでした。9ヘクタールの水田を作りながら、炊き出しのボランティアなどをして過ごしてきました。

 JAの経営は平年に比べて苦しかったのですが、状況を打破したいと、昨年9月に組合長に就任しました。今後、復興のシンボルとして、市内に新しいファーマーズマーケットをつくりたいと思います。石巻地域は食材が豊富です。農業には無限の可能性があります。資源を活用し、夢のある産業にするつもりです。

 JAいしのまきは組合員227人、役職員5人が亡くなった。現在は組合員1万6937人、職員618人。主力の米に加え、キュウリ、イチゴ、トマト、小ネギ、牛繁殖・肥育など多彩。

・「援農隊」の編成へ 先手打ち強い農業に

 福島・JAそうま 鈴木良重組合長

 津波と原発両方の被害を受けた管内は、地域ごとに復興の進み具合や、置かれた状況に違いが出てきています。それらの隔たりを完全に埋めるのは困難です。組合員がいかに気持ちの上で一つになれるかが、JAの事業運営で求められています。

 津波被害で住み慣れた家や農地を失った、家は残ったけど農地が海水に漬かった、放射能問題で農畜産物が「風評被害」に脅かされている、移転を強いられる――など。被害や状況が千差万別の組合員に同じ方向を向いてもらうのは容易なことではありません。それには互いの実情を理解してもらうための、仕掛けが必要です。

 いま、放射能問題や津波などで米を作付けできない人を集めて、援農隊を編成しようと考えています。稲作を通じて交流を図ってもらいます。30人ほど募って、生産に取り組む農家の草刈りや収穫作業などを手伝ってもらう構想です。援農隊は米を生産できないため、保有米がありません。作業を通じて、米を提供してもらうなど仕組みを築きたいです。

 昨年10月、JAの出資型農業生産法人「アグリサービスそうま」を立ち上げました。

 被災農地を集約化して農作業を請け負い、除塩や除染作業を推し進める狙いがあります。雇用した被災農家の収入を支援するこの枠組みを併用することで、管内の交流がより深まるはずです。

 復興のペースは遅いと受け止めています。被害の規模があまりに大きいことや、放射能の影響があります。組合員が安心して営農と生活を送れる環境づくりを、JAは先手を打って進めていきます。

 昨年6月には、農畜産物の損害賠償請求に対応する「原発損害賠償・補償対策班」を設置しました。11月には「災害農地除塩・除染対策班」を発足し、津波の被災田の除塩を先行して、果樹園や水田の除染に取り組んでいます。12月からは組合員が利用できる食品の放射能測定システムも稼働させています。

 復興は1年や2年で片付きません。農地の復旧や除染作業に地道に取り組み、その過程の交流で組合員が絆を深めることが、後に生きてくるはずです。

 管内では大規模圃場(ほじょう)整備による 農地の集約化を進めていきます。また、これまでの米などを柱にした土地利用型から、面積当たりの 収益が高いレタスやイチゴなど集約農業の推進も考えています。ただ震災前の状態に復旧させるだけでなく、より強い農業へ復興する必要があります。

 JAそうま管内4市町村の死者・行方不明者は1241人。津波と原発により水田は全体の8割に当たる9780ヘクタールで被害を受けた。2011年産米を作付けできた水田は全体の2割、1690ヘクタールにとどまった。