[除塩の検証 残す2万ヘクタールに備えて](3)透水性の促進/「なるせ方式」手応え

掲載日:
2011/10/05
発行元:
日本農業新聞

 農家でつくる全国土を考える会東北支部が9月下旬、宮城県松島町で開いた塩害対策を主題にした研修会。隣の東松島市で営農する特定農業法人アグリードなるせ代表の安部俊郎さん(54)は、行政やJAなどからも集まった約100人を前に「なるせ方式」と呼んでいる除塩法の効果を力説した。

 この手法はいわゆる縦浸透法。本暗きょがある農地で代かきをするのではなく、地下排水を生かして塩を抜く。土壌の透水性を促進するためサブソイラーで心土を破砕した後、粗耕起、3日間のたん水、本暗きょから排水する一連の作業だ。

 同法人はこの手法を使い、海水に1週間漬かっていた33ヘクタールの水田全てで塩を抜くことに成功した。数日後に収穫を控え、「海水のミネラル分が入ったためか、例年よりも実りが良い」と自信を見せた。

・心土破砕は通常より深く

 塩害を受けた農地では3年は米を作れない――。東日本大震災の直後、安部さんはこんな報道に触れた。地域内で生産意欲の減退や農地の荒廃が起きるのを心配し、同法人は1年で完全に塩を抜くことを目指したのだ。

 対象にしたのは本暗きょがあり土砂の堆積が2センチ未満で、有害物質が含まれていない水田。ここに間隔90センチ、深さ50センチで心土を破砕した。

 破砕する位置を50センチと通常より深くしたのは、基盤整備が終わってから10年以上がたっているためだ。技術指導をした作業機メーカーのスガノ農機(茨城県美浦村)営農土木チームは「時間の経過とともに、本暗きょのパイプに排水を導く疎水材として詰めたもみ殻が腐り、その位置が下がっている可能性がある」と説明する。サブソイラーでつくる切れ込みが疎水材の深みに届かなければ、排水機能が落ちるわけだ。

 サブソイラーを装着したトラクターは圃場(ほじょう)に対し斜め45度になるよう走らせた。真っすぐにすると、破砕した亀裂に田植え機がはまってしまう。

 一連の作業をした後に土壌深さ10センチの塩類集積濃度(EC)の値は、砂質の圃場では1.5から0.5に下がった。1999年の大型台風による高潮被害を受けて、熊本県がつくった塩害の技術対策集では水稲に生育障害が出ない数値だ。

 やや粘性が強い圃場でも、3日のたん水で2以上あった値は0.5以下になった。さらに粘性が強い水田では一連の作業を1度しただけでは、目標の塩分濃度に到達しなかった。この場合、サブソイラーで2回心土を破砕したところ、稲作できる数値に至った。

・弾丸暗きょの効果を確認

 宮城大学食産業学部の千葉克己講師(土壌改良学)は「除塩を促すには弾丸暗きょや心土破砕を入れることが重要」と指摘する。宮城県内で津波をかぶった水田で弾丸暗きょの有無によるEC値の変化をみたところ、あった方が早く値が下がることを確かめた。

 東北農政局も9月末に公表した除塩の試験結果で同様の成果を明らかにしている。弾丸暗きょを施工しておけば、農地を雨水にさらしておくだけでも塩分は下がっていった。同農政局は「除塩の作業を始めるのに時間がある場合でも、あらかじめ弾丸暗きょを施工しておくべきだ」(整備部)と提案している。