基盤失った仲間支えたい 動きだす農業法人/宮城 積極的に被災農家雇用 拡大へ施策充実を

掲載日:
2011/06/28
発行元:
日本農業新聞

 東日本大震災で被災した農家を雇用しようと、被災地の農業生産法人が動き始めている。被害を受けた法人も多く、取り組みはまだ限定的だが、手慣れた農作業で当面の所得が確保できると被災農家からは好評だ。国の事業を活用した農業での雇用の広がりが期待されるとともに、被災地では支援の充実を求めている。

 耕地面積の5割に当たる1495ヘクタールが津波の被害を受けたと推定される宮城県東松島市。市内の農家13戸でつくる農業生産法人「アグリードなるせ」は被災農家を積極的に雇用する。

 同法人は経営面積60ヘクタールのうち30ヘクタールが津波をかぶったが、農機の多くは無事だった。がれきに埋もれた5ヘクタールを除く25ヘクタールを除塩。被災を免れた30ヘクタールと合わせて55ヘクタールに、水稲と種子用大豆を作付けした。

 元JA職員で同法人社長の安部俊郎さん(54)は立ち上がりを急いだ理由について「津波で農業生産基盤の全てを失った仲間のためにも、作付けしなければ何も始まらないと思った」と話す。同法人は地域の被災農家2人を雇用した。手間の掛かる種子用大豆の収穫期には十数人の臨時雇用も予定する。

 だが、被災地で雇用を増やせる農業生産法人は現状では一握りだ。

 被災者らの就農を支援している全国農業会議所・全国新規就農相談センターによると、全国371社の農業生産法人から1012人の求人情報が寄せられている。しかし、このうち被害が最も大きかった岩手、宮城、福島の3県の求人は9社40人に限られる。一方で、被災農家の関心は3県に集中する。

 西日本のある県の担当者は、ホームページに求人情報を掲載しているが直接の問い合わせはないという。「気候が変わり、土質が変われば農業も変わる。就農先を近場から探す農家の気持ちはよく分かる」と話す。

 全国農業会議所の新規就農人材対策部は「被災地の農業生産法人にはまだ求人できる力が戻っていない」と指摘する。経営再開に向けて共同で復旧作業を行う場合に支援金を出す「被災農家経営再開支援事業」などを念頭に、「国の事業が本格化するこれからは、被災地の(農業の)求人も増えるのではないか」と期待する。

 東松島市の「アグリードなるせ」で働くようになった被災農家の土井英博さん(61)と尾形忠紀さん(28)は「慣れた仕事だからやりやすい」「市内に仕事があるだけでありがたい」と言う。避難所暮らしが続く中、将来の見通しは立たないが、2人は「また農業をやることになると思う」と声をそろえる。

 「農家は農業をやっていてこそ次への意欲が湧く」と社長の安部さん。より多くの被災農家が農業に携われるよう、国による支援の拡充・強化の必要性を強調する。