[大地とともに 東日本大震災6カ月](2)計画遅れ/農家主体の復興阻む

掲載日:
2011/09/13
発行元:
日本農業新聞

 東日本大震災に伴う津波の被害で水田140ヘクタールなど全農地が海水に漬かり、106戸の家屋全てが全壊した仙台市若林区の三本塚集落。震災が起きるまで30ヘクタールの水田経営をしていた農業生産法人「ゆいファーム」の代表・大友昇さん(63)は、いら立ちを募らせる。「まずここに住めるのかが知りたいんだ」

 防災対策の観点から同市は、住宅建設や居住を認める地域と認めない地域を分ける線引きに取り組んでいるが、発表が遅れているからだ。

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 海抜ゼロメートルだった同集落は地盤沈下で海面より低くなり、排水機能も失われた。居住地域に入るかどうかに住民の関心が集まる。しかし同市は、8月末としていた発表時期を1カ月先延ばしした。津波による浸水範囲や深さを予測するシミュレーション結果の取りまとめが遅れているため、検討が進まないからだ。

 生活の場が定まらないため同集落では、農業の復旧・復興の青写真について検討にも入れない。同法人の一員で、地元JA仙台の集落組織・三本塚実行組合長を務める相澤勝さん(59)は「立ち直るなら強い農業にしたい」と、大区画圃場(ほじょう)整備も併せて行う「復興」が必要との考え。だが「農地の再生について農家は議論もできない」。

 JAが行った意向調査でも、三本塚集落を含む六郷地区で圃場整備を希望する農家は6割に上った。しかし費用も壁だ。JAの試算では、国からの助成を入れても地権者は10アールおおむね2万円の負担が必要になる。資金をどう確保するか。営農再開までの収入をどう得るかも課題だ。「圃場整備となれば5年はかかる」と相澤さん。答えは見いだせていない。

 政府が復興への基本的な考え方を盛り込んだ「復興基本方針」を策定したのは7月末。同基本方針を受け農水省が、農地の復旧可能性を示す図面を公表したのは8月26日だった。基本方針は「経営再開まで切れ目のない支援を行う」と明記しているが、初期投資の負担軽減や所得確保などの具体策、財源は2011年度第3次補正予算や12年度当初予算に持ち越されている。

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 被災地の地方自治体では当初、居住地域を含め土地利用の区分けや復興の方向、支援事業などを盛り込む復興計画の7〜9月の策定を目指す市町村が多かった。だが「国の第3次補正予算案の策定が遅れているため事業が詰められない。10月までずれ込む可能性もある」(7月策定を目指していた岩手県大船渡市)など遅れが目立つ。

 一方で、復興を新たな商機とみて農地の獲得に乗り出す民間企業も出てきた。被災農家に「金を出すので、農地と罹災(りさい)証明書を貸してくれ」「野菜工場を造るので出資しないか」といった、被災農地の利用を想定した事業への誘いが増えている。

 地域農業の“旗印”となる復興計画がなければ被災農家はバラバラになりかねない。農家の主体的な取り組みを促す復興計画と、その実行を裏打ちする国の支援策の確立が急務になっている。