[大地とともに 東日本大震災3カ月](1)農地再生/国が買い上げ再配分を

掲載日:
2011/06/10
発行元:
日本農業新聞

◇みんな流された。立ち直るには誰かが音頭を取り、やるしかない

 東日本大震災の発生から11日で3カ月。政府は復旧財源となる今年度の第1次補正予算を執行し、東京電力福島第1原子力発電所事故に伴う損害賠償の対象も一部決まった。だが、被災地ではなお苦難が続く。農地のがれきの撤去は進んでいない。農機や設備・施設を再整備する資金もままならない。原発事故の収束の見通しは立たず、賠償金の支払いも遅れている。再起を目指す農業者の姿を追い、課題を探った。

 仙台市宮城野区の沿岸部の稲作農家、平山尚さん(71)は農家6戸で昨年、任意組合を農業生産法人「新浜協業組合」に発展させた。大型コンバイン2台を購入し、経営規模をそれまでの50ヘクタールからさらに拡大させる準備を整えた。その矢先、津波が全てを持ち去った。

 平山さんは、後継者として期待していた長男を失った。法人の女性構成員も亡くなった。住宅は6戸とも全壊。購入したばかりのコンバイン2台のほか、田植え機、トラクターなど米作りに欠かせない機械・設備も全滅した。津波で大量のがれきや土砂が流れ込み、今年作付けできた水田は一枚もない。

 それでも平山さんは、集落の60戸の農家と100ヘクタールの農地をまとめようと呼び掛けを始めた。集落ぐるみで大区画農業を実現するためだ。

 「みんな流された。立ち直るには誰かが音頭を取り、地域のみんなで力を合わせて、これまでできなかったことをやるしかない」と言い切る。

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 地元のJA仙台では、正組合員とその家族の死者・行方不明者が200人を超え、農地の被害は耕地面積の4分の1に当たる2167ヘクタールに上る。

 しかし、JAが仙台市などと協力して認定農業者ら農業を主体とした組合員126戸の意向を5月上旬までに調べたところ、9割が経営を続けると回答した。このうち3割は、規模を拡大したいとの考えを示した。平山さんの動きは“点”ではない。

 「組合員の意欲を農業振興に確実に結び付けていくためには、組合員が農業から離れている時間をいかに短くできるかが重要だ」。JAの菅野育男専務が力説する。

 組合員への調査は今も継続。こうした農家や地域の意向に基づいた復興計画を国や地方自治体が早期にまとめ、農業再建への支援を急ぐよう求める。

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 農水省によると、同省が推定したJA管内の被害農地のうち、水稲を作付けできるのは4%の98ヘクタールにとどまる。同省農村振興局の担当者は「今回の震災は被害が大きく、一般的な農地の災害復旧事業のように3年以内で全て終えるというのは難しい」と打ち明ける。早期の復旧・復興には、大胆な政策支援が欠かせない。

 JAの渋谷奉弘震災復興推進課長は、国による被災農地の買い上げの有効性を指摘する。

 例えば、平山さんの集落は沿岸部に近く、海岸からの距離などに応じて再生可能な農地と不可能な農地に分かれることもあり得る。このため、農業者間で個別に売買や貸し借りなどを調整するには相当の時間と労力が掛かるとみられている。

 だが、再生可能な農地と不可能な農地共に「国がいったん買い上げて大区画に整備し意欲のある農家に再配分すれば、円滑に進む」と渋谷課長。ここに国の支援を求めている。