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共済・保険・社会保障・社会福祉

農山漁村地域における生活の安定に資するべく、共済を中心とした保障提供と、介護・福祉・子育て等の社会保障について調査・研究を行っています。

医療供給体制の毀損と医療者のモラール低下の経済理論による解説-医療制度の動向と農協共済-

発表者 主席研究員 渡辺 靖仁
発  表 報告書 2007年3月

概要

目次
  1. はじめに
  2. 医療サービスをめぐる経済学の標準的な教科書的解説-価格理論
  3. 調整過程の欠如
  4. 情報の欠如-情報の経済学からのアプローチ
  5. そのほかの理論-部分最適が全体最適を満たさないケース
  6. 共済の基礎と保険制度
  7. おわりに

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  • 日本の医療供給体制の崩壊の兆しが明らかになってきた。その理由は、(1)制度的には、高齢化と医療技術の高度化によって、医療者という経済学的にいえば医療「資源」の希少性が増大したにもかかわらず、それにみあう予算措置と医療者の供給措置が取られなかったこと、(2)社会心理的には、医療を必要とする者の権利意識の異常といってもよい高まりにより、本来不確実な医療に対して、国民が無謬性を要求するようになったことにあると考えられる。
  • 本研究では、日本の医療制度の特徴と運用について、文献調査ならびに医療者からの聞き取り調査を行い、その内容を整理して次の3点の考察を加えた。

    • (1)周知のように、日本の医療制度は、国民皆保険制・現物給付・フリーアクセスという3つの優れた特質をもっている。にもかかわらず、医療の現状について、例えば「大学病院の3時間待ち3分診療」と揶揄され ることがある。この状況は、世界的にも無類の高水準な医療サービスの提供を実践していることをあらわしている。しかしながら、これに経済学の標準的な価格理論を無条件に適用して需給分析を行うと、医療価格の 硬直性や参入障壁が問題であるといった、著しく誤った認識を招く可能性が高い。
    • (2)情報の経済学では、情報の非対称性があると市場は失敗するという理論がある。これは、巷間、医療サービスには情報の非対称性があり、患者は医療者に比べて乏しい情報しかないから、医療者は情報を多量に 提供して市場の失敗を抑止すべきだという主張の根拠にもなっている。しかし、医療行為によって予期せぬ合併症が起こる可能性は常にゼロではない。それは医療者には知りえない患者の特質であろう。その結果 不幸な転帰をたどった場合、患者側からの損害賠償の請求や、救命の努力をした医療者でも「過失犯」として立件される可能性があるのが現状である。この状況では、むしろ医療者のほうが患者の情報に乏しく、そ の乏しさが決定的な取り扱いにつながるという理論構成のほうが妥当である。この場合、悪貨は良貨を駆逐するごとく、良質な医療者は「市場」から駆逐され、やがては「医療サービス市場」自体も縮小する。
    • (3)このような状況から、医療制度を公共財として改めて位置づける必要性が高いことを明らかにした。
  • 以上の考察から、今後の地域医療の維持と運営には、地域の参画が不可欠であることを指摘し、(1)医療者に優しいコミュニティの創成という、特定地域の社会心理的な要素の保全によって、良質な医療者を呼び込むこと、(2)場合によっては、良質な医療資源の確保のための仕組みを検討するというふたつの提案を行った。
    最後に、このふたつの提案を通じて、患者はもちろん社会のひとりひとりが医療者に、医療者は社会に、感謝の心を持てるようになることが必須であり、その昔この国に当たり前にあった他者へのおもいやりの心を取り戻さない限り、医療はもとより、教育・家族・社会の再生はないことを主張した。もちろん共済の思想は、自分でできる範囲における他者への思いやりを体現するものである。従って今後もこの思想が再評価される必要性の高いことを述べた。