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共済・保険・社会保障・社会福祉

農山漁村地域における生活の安定に資するべく、共済を中心とした保障提供と、介護・福祉・子育て等の社会保障について調査・研究を行っています。

日豪EPAが我が国農業およびJA共済に与える影響

発表者 鈴木 宣弘(東京大学大学院教授) 主席研究員 渡辺 靖仁
発  表 共済総合研究第51号 2007年8月

概要

目次
  1. なぜ日豪EPAが大変なのか
    1. 最小の利益と最大の損失
    2. 従来の手法が適用できない
    3. 埋められない土地条件の圧倒的格差
    4. 国内農業と関連産業への甚大な影響
    5. 日本に農業はいらないか
    6. 重要品目への柔軟な対応の正当性
    7. 豪州のかたくなさ
    8. 冷静にギリギリの現実的妥協点を探る
  2. JA共済への影響
    1. 品目別の損失額の考え方
    2. 農業生産額の減少と農業所得との関係
    3. 波及効果の考え方
    4. 農家総所得とJA共済金額(生命総合共済の保有ベース)の関係
    5. 推定結果と含意

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  • 日本の農産物市場が閉鎖的だというのは事実誤認である。日本ほどグローバル化した食料市場はないといってもよい。我々の体のエネルギーの60%もが海外の食料に依存していることが何よりの証拠である。わずかに残された高関税のコメや乳製品等の農産物は、国民にとっての基幹食料であり、土地条件に大きく依存する作目であるため、土地に乏しい日本が外国と同じ土俵で競争することが困難ゆえに関税を必要としているのである。
  • しかし、日豪EPA(経済連携協定)交渉では、このような重要品目についても関税撤廃が強く迫られる可能性がある。しかも国内では、経済財政諮問会議等において、貿易自由化を含め、規制緩和さえすればすべてがうまくいくという人々が、さらに声を大きくしてきている。しかしその主張は幻想である。農産物貿易も自由化して国内農業が競争にさらされれば、強い農業が育ち食料自給率も向上するというのは、あまりに楽観的である。日本の農家一戸当たり耕地面積が1.8haなのに対して豪州のそれは3,385haで、実に約2,000倍である。このような、個々の経営体の努力で埋められない格差を考慮せずに貿易自由化を進めていけば、日本の食料生産は競争力が備わる前に壊滅的な打撃を受け、自給率は限りなくゼロに近づいていくであろう。
  • しかも、かりにそれでも大丈夫だというのが、規制緩和を支持する方々の次なる主張である。自由貿易協定で仲良くなれば、日本で食料を生産しなくても、豪州が日本人の食料を守ってくれるというのである。しかしこれは甘すぎる。食料の輸出規制条項を削除したとしても、食料は自国を優先するのが当然であるから、実質的な効力を持たないであろう。EUも、まず各国での一定の自給率の維持を重視している点を見逃してはならない。
  • いま日本では、医療と農業が規制緩和を推進する人々の「標的」となっており、医療も、農村部の医療の「担い手」不足の深刻化等、一種の崩壊現象が社会に重大な問題を提起し始めている。医療と農業には、人々の健康と生命に直結する公益性の高さに共通性があり、そうした財・サービスの供給が滞るリスクをないがしろにしてよいのであろうか。
  • JA共済への影響も甚大である。我々の試算では、日豪EPAの締結で、農産物が例外なく関税撤廃対象となり、追加的な支援策が採られなかった場合には、生命総合共済の保有高(保障金額ベース)は全国で18%の減少となる。特に、乳製品・砂糖・牛肉・麦等、最も関連品目の多い北海道の57%の減少を筆頭に、やはり、砂糖のウエイトの高い沖縄が50%、砂糖や牛肉のウエイトの高い鹿児島・宮崎が約40%で続く。全国基準で18%の減少率も非常に大きな影響といえるが、地域別に影響度合いがかなり異なり、関連品目の農業のウエイトが高い道県の影響は深刻であり、農業依存度の低い都府県との所得格差がさらに大きくなることが懸念される。
  • 一部の人々の短期的な利益のために拙速な流れを許せば、日本の将来に取り返しのつかない事態と禍根を残すことになりかねない。いまこそ国民的な議論を尽くすべきときである。