農山漁村地域の再生・活性化に向けた若年層の地方人材還流戦略
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137いのかもしれないが、それはまた、個のレベルでアトム化し、無表情で無関心で断片化してしまった社会に向けられた、彼らなりのレジスタンスなのかもしれない。たしかに都会の高層ビルの中には多くの企業が雑居しているが、異なる企業に勤める職員どうしが、たとえば廊下ですれ違ったとしても、互いに笑顔で挨拶を交わすような習慣はない。近年では同じ職場の同僚においても似たような振る舞いが一般化してきた。それはまさしく都市社会学という学問が出現した頃に米国の社会学者A.ゴッフマンがいみじくも指摘した「儀礼的無関心(*5)」という新しいマナーあるいはコミュニケーション・ルールが、すでに社会に定着したことの証であろう。米国の文化人類学者A.ホールは、人間同士の精神的空間には「密接距離」・「個体距離」・「社会距離」・「公共距離」という4つの距離感覚が内在し、なかでも密接距離は親子や恋人同士のような極めて親密な関係にある者同士が共有する距離であると定義している(*6)。ゴッフマンは、このホールの知見に基づいて都市生活者を観察し、相互行為の場における人間の行動原理を分析した。都市の公共空間では電車やバスあるいはエレベーターの中など、好むと好まざるとにかかわらず、互いの密接距離内へと他者が侵入する状況が日常的に繰り返されている。都市に生きる人々は、あたかも他者の存在に気付いていないような素振りをして、互いに目を合わすこともなく、必要以上に相手の行動を観察したりもしない。このような都市生活者がとる特有の行動、その無関心を装う態度に「儀礼的無関心」と名付けた。ひとつのビルの中で仕事をしている人々は渋谷のスクランブル交差点を行き交う雑踏ではない

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