縮小しながら発展する地域の創生
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91この問題は、日本の今の最大の問題です。ただ、私有ということを捨ててしまっていいのでしょうか。今のような社会で私有権を放棄したら、必ずそれを商品やお金に換えるというシステムがどっと侵入してきます。ですから私は、むしろ私有権を持って対抗したほうがいいと思いますが、その力が地方に十分にないというのが大きな問題だと思います。私有の問題は日本の形成の問題で、先ほどの「農民とは何か」という問題とも深く関わっていて、すごい問題提起だと思います。また、深い研究が必要でしょうからひと言では言えませんが、私有の問題について、エンゲルスたちは「都市の労働者は、みんなが私有財産権を放棄して自分の労働力だけを持って都市に集まり、プロレタリアになって、この人たちがいずれ世界をつくっていく」という世界観を19世紀につくりました。ところが、これを20世紀に実現しようとして農村で何をやったかというと、コルホーズをつくったり、人民公社をつくったりして、農民の私有権の一切を奪って、全部国有地にし、農民を労働者にしたわけです。この考え方が根本的に間違いだということは、もはや中国でもロシアでも立証済みです。つまり、私有財産に関する19世紀の思想は、破たんしていると言えます。私有といわゆる公共の問題に関して、本当に深く考えなければいけないけれども、今の経済学でも哲学でもまだ放棄されているように思います。(*7) Friedrich Engels(1820~1895)ドイツの経済学者、哲学者、社会主義者。カール・マルクス(1818~1883)とともにマルクス主義を創設。(*8) 原タイトルは“Der Ursprung der Familie, des Privateigenthums und des Staats.(4.Au.)”1884年に刊行。日本語訳はエンゲルス著、土屋保男訳『家族・私有財産・国家の起源』新日本出版社1999年など。

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