2025年の日本を俯瞰した調和的な社会経済モデルを探る
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46に入院します。すると、絶対安静にしていたら寝たきりになります。認知症が発症し、帰れなくなります。そして病院を転々としたり、施設に行ったりします。いずれ大都市圏の病院が受け止め切れなくなるのは明らかです。そういう深刻な事態が近づいています。(2)なぜ在宅医療が必要なのか問題は、今の病院医療は生活の場に医療が及んでいないことです。専門外来の先生が病院のいわば出店のような感じで開業しているわけですから、在宅医療があまりありません。ここが抜けているから、何かあったら救急車で病院へ行くしかないのです。もし在宅に医療が及べば、肺炎もかなりコントロールできます。さらにケアシステムがあり、本人家族が求めれば看取りもできます。このような在宅医療が普及していない点が問題なのです。日本人の3分の1はがんで死にます。そのがん末期を想定してみてください。アメリカの医療社会学者タルコット・パーソンズ(*5)は、「入院すると病人役割(*6)が課せられる」と言っています。朝から晩まで病気治療の体制です。しかし、もし在宅で生活をしていたらどうでしょう。同じ病状でも家にいればペットがいる。匂いのたちこめる鍋も食べられる。アルコールを飲んでも叱られない。痛い時コントロールしていただければ、笑顔で生活者として暮らし続けられるわけです。日本の医療は大成功した結果、老いたが故に亡くなるようになりました。けれども、その死に至る過程を基本的に生活者として笑顔で生きられないのであれば、何のために生き長らえたのかと思います。我々が生活の場に居続けられるためには、医療が在宅に来るべきなのです。

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