2025年の日本を俯瞰した調和的な社会経済モデルを探る
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121もブラックボックスを形成してしまったことで、当事者意識と健康意識の欠如あるいは減退を招いたことが一つ目の理由である。本格的な高齢社会の到来を前に、いま問われているのは地域一丸となった健康価値の創造である。また医療については、産業にリンクした健康保険制度の構築や、保険診療の範囲および診療の価格を詳細に規定した診療報酬体系の導入など、高度な行政技術によって医療提供体制と財政基盤が管理されている。そして臨床の現場では、医学・医療の進歩が著しく、つねに更新される科学的知見と医療技術、そして先端工学の融合により、現代医療は支えられている。まさに医療は専門性の高い領域であり、庶民が介入することの許されないアジール(聖域)として、独特の世界をつくり出してきた。その過程でいつしか医療機関も、天寿を全うするための一時的な避難場所から、盲目的に長寿を目指す科学の城へと変容していった。「死は敗北」という感覚を多くの医療関係者たちが抱くようになったのも、病院という俗世から隔絶された異空間で、すなわち患者の暮らしや人生とは無関係な場所で、病と闘い、いのちと向き合ってきたからではないだろうか。病院医療の一般化と医療における情報の非対称性、これが二つ目の理由である。本セミナーのテーマでもある地域包括ケアの概念は、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体として捉える、としている。すなわち地域包括ケアは「まちづくり」そのものである。そもそも地域の医療提供体制の構築や、介護あるいは高齢者福祉を提供するための環境整備な

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