2025年の日本を俯瞰した調和的な社会経済モデルを探る
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113社会保障はその国のいわば顔日本の医療に市場主義は向かない辻:TPPについては、私が厚生労働省で現役の頃は、まだ大きな行政課題になっていなかったので、実はあまり分かったようなことは申し上げられないのですが、アメリカの市場主義が日本の医療に対して開放を求め、アメリカ風の株式会社が日本の医療市場に入ってくるのではないか。仮に課題をこのように設定するとすれば、私は「それはない」と考えます。日本医師会が静かになられたのも、その辺りがお分かりになったからではないでしょうか。 というのは、社会保障というのはその国の形なのです。例えばイギリスはナショナル・ヘルス・サービスということで、原則国営でやっています。イギリス風の部分民営化はやっていますが、社会保障をどうするかなどということまではいってないですよね。同じ欧州でもフランスやドイツは社会保険で、フランスは公立病院中心です。このように社会保障はその国のいわば「顔」のようなものです。アメリカは民間私保険であり、財団法人や宗教法人もかなりありますが、株式会社がやりたいようにやれるというアメリカの医療システムは、世界の中ではどちらかというと異端なのです。「なぜそのような異端を受け入れるのか。それぞれの仕組みによるべきだ」と言えば、議論はそこで終わりだと私は思っています。 あくまで私の個人的見解ですが、日本の場合、株式会社は向かないと思います。というのは、国民皆保険という形で医療市場が公営化されている。つまり、市場における買う人と売る人の間の力関係を司るシステムが公的制度になっているのです。市場主義は合理的だ。だから株式会社が入ってくるのは適切だという意見はある

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