自然と人間の協働による永続的な地域社会づくり
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17や「豊かさ」といった情緒的で感覚的なもの、あるいは感性や想像力というものを大切にして、もう少し根源的な部分にまで踏み込んだ議論をしていかなければならないのではないか、と改めて感じるのです。●忘れられた思想思い起こせば、1960年代後半から70年代にかけて〝地域主義〟という思想の萌芽がありました。私が17歳の頃、法律専門誌(判例紹介誌)の『ジュリスト』増刊総合特集に「全国まちづくり集覧」が取り上げられたことがあり、この中に、当時は東京大学の教授であった玉野井芳郎氏の「まちづくりの思想としての地域主義」という論文が掲載されていました。玉野井氏によると、地域主義とは「一定の地域住民が、その地域の風土的個性を背景に、その地域の共同体に対して一体感をもち、地域の行政的・経済的自立と文化的独立性を追求する」としながら、それは「地域の住民の自発性と実行力によって地域の個性を生かしきる産業と文化を内発的につくり上げて、「下から上へ」の方向を打ち出してゆく」ものであると述べています。さらに、1970年代から80年代にかけて〝内発的発展論〟を唱える研究者たちが登場し、一つの思想的潮流をつくり出しました。社会学者の鶴見和子氏は、アメリカ社会学と日本民俗学の研究、さらには南みなかたくまぐす方熊楠に関する研究などから得た知見を融合して内発的発展論の思想的基盤を形成していきました。また経済学者(環境経済学)の宮本憲一氏は、鶴見氏が内発的発展の原動力を「キーパースンとしての小さき民」すなわち〝個人〟に求めたのに対し、その役割を〝組織〟に託して産業論的な視座から地域政策としての内発的発展論を唱えました。それは、地域内産業連関によって内的な経済循環を生み

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