事故・医療

農山漁村地域では高齢化が進行し大きな社会問題となっていることから、運動器(脊椎、骨、関節、筋肉、神経等)の健康と維持、ならびに健康の阻害要因となり得る運動器障害の解明、予防のために事故や環境等の外因と外傷・疾病に関する調査・研究を行っています。

共同不法行為および競合的不法行為における過失相殺の方法について

発表者 主席研究員 加藤 正男
発  表 報告書 2010年3月

概要

1.はじめに

複数加害者が介在した交通事故等の不法行為で被害者にも過失が認められる場合がある。 この場合、被害者の損害に対して過失相殺が行われることになるが、どのような方法で行なわれるかという問題である。

従来、共同不法行為の過失相殺の方法としては、1.共同不法行為者の加害行為を一体として考える「一体的過失相殺」、2.過失を各人に割合的に割り当てたうえで、(1)加害者側の過失割合を加算する「加算的過失相殺(以下、「絶対的過失相殺」という。)」と(2)各加害者と被害者ごとに相対的に過失相殺を行なう「相対的過失相殺」という方法がある。

本稿では、共同不法行為に関する過失相殺を論じた2つの最高裁判決を検討し、三当事者が関与した不法行為における過失相殺の方法について考えてみたい。

2.共同不法行為の過失相殺に関する2つの最高裁判決の比較

最三小判平成13.3.13(民集55巻2号328頁)(以下、「13年判決」という。)は、過失相殺は損害について加害者と被害者との間でそれぞれの過失の割合を基準にして相対的な負担の公平を図る制度であるから、交通事故と医療過誤の競合である本件のような共同不法行為においても同様であるとして相対的過失相殺の手法を採用した。

他方、最二小判平成15.7.11(民集57巻7号815頁)(以下、「15年判決」という。)は、複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定することができるときは、絶対的過失割合に基く被害者の過失割合による過失相殺をすべきとして、絶対的過失相殺を採用した。

上記のとおり13年判決は過失相殺の制度的意義から、15年判決は民法第719条(以下、単に719条という。)の法的趣旨から判決を導き出している点で異なるが、判断対象となる不法行為の競合を共同不法行為としている点では共通している。しかし、採用すべき過失相殺の方法について示した結論が異なるのは、やはり侵害行為の異質性によるものと考えるべきであろう。すなわち、13年判決のような異質な行為が順次競合した場合には、そもそも過失の構造が異なるため両者を同じ土俵の上で対比することはできないので、絶対的過失割合自体を導き出すことができない点で、15年判決の射程外としても矛盾するものではないと考えられる。

このように理解すれば、上記二つの最高裁判決は同じ共同不法行為といえども、侵害行為の性質・義務違背の内容によっては、過失相殺の方法が異なってくることもありうると解することができる。

3.検討

各当事者に帰責事由のある三者関与事故における過失相殺の方法について、以下に検討する。

  • 交通事故を原因とする場合
    • (1)15年判決のような事例である。この場合は明らかに時間的・場所的近接性を備えた同質の不法行為の競合であり、719条1項前段を適用すべき共同不法行為と判断できるものである。
      このような場合は、15年判決が指摘するように絶対的過失割合を認定できるときに該当するので、被害者にとって最も有利な賠償額を導き出すことができ、求償問題も一回的に解決可能な絶対的過失相殺が妥当である。
    • (2)交通事故を原因とする場合で次のような事例がある。第一事故で頚椎捻挫を受傷し通院治療中の1ヵ月後、第二の交通事故で頚椎捻挫の症状が悪化した場合である。このような事例を自動車保険実務上、異時共同不法行為と呼んで処理しているが、この二つの交通事故は時間的・場所的近接性を備えておらず、共同不法行為とは認められない。
      この場合には、15年判決が示した「一つの交通事故」に該当せず、各当事者の過失の割合を同一の土俵上で“一元的”に計れないため、絶対的過失割合を当てはめることができない。このような場合の法的構成は不法行為の競合であるが、 損害の不可分性から719条1項後段を適用すべきである。そうすると寄与度について主張・立証できた場合には寄与度減責を認めることになる。複数加害者の寄与度が同程度と認められれば、被害者保護に手厚い一体的過失相殺を、寄与度に明らかな差が認められる場合には、 公平の観念からも相対的過失相殺がなされるべきである。
  • 交通事故と医療過誤が競合する場合
    13年判決のような事例である。このような事例を共同不法行為といえるか異論はあるものの、当判決が示すように「加害者及び侵害行為を異」にし、「各不法行為について加害者及び被害者の過失の内容も別異の性質を有する」ものであることから、15年判決が示した「原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定することができる」ときに該当しない。したがって、絶対的過失相殺を採用することができない。 このような異質な不法行為が競合した場合は、民法第709条によって処理されるべきだが、損害が不可分な場合は異時共同不法行為同様719条1項後段を適用する。しかし、過失相殺の方法は異なり相対的過失相殺のみとなる。