医療・賠償

交通事故判例にみる四肢骨折症例の分析-早期社会復帰を妨げる長期化要因と対応策-

発表者 主席研究員 辻 泰
発  表 整形・災害外科 Orthopaedic Surgery and Traumatology Vol.51 No.11 2008


概要

1.目的

交通事故による骨折症例には、自動車・自賠責共済(保険)がからむ関係で、労災、スポーツ、転倒・転落など他の原因による外傷例とは異なる特殊性が存在する。つまり、骨折を受傷した被害者は、骨癒合が得られ社会復帰したとしても、症状固定時期、後遺障害等級、最終的な損害賠償額を巡って賠償側との交渉が長期化し、示談が不成立の場合は、紛争処理機構への移行、さらには調停や訴訟にまで発展することがある点である。

そこで、交通事故判例を分析し、早期社会復帰を妨げる長期化要因と対応策について、損害賠償上の視点から検討した。

2.対象および方法

判例の抽出には、「交通事故民事裁判例集32〜36巻[ぎょうせい](1999〜2003年)」と判例データベース(「判例マスター[新日本法規出版、現ウエストロー・ジャパン]」、「判例検索システムVSバージョン[自動車保険ジャーナル]を使用した)で「事故」and「骨折」をキーワードとして、判決年が1999〜2003年までの5年間の交通事故を原因とする四肢骨折症例を抽出し、その出典を確認した215例の判例を対象とした。

3.結果および考察

1999〜2003年を対象とした判例(215例)の統計分析では、休業補償期間は393日、療養期間が567日であった。休業補償期間と療養期間には強い相関(r=0.79)があった。60%の判例において、症状固定まで全期間休業補償が認定されていた。32%は症状固定日まで社会復帰できていなかった。休業補償期間は82%、療養期間は93.3%が原告の請求どおり認定されていた。医療過誤を争うものは13例あった。長期化例には、(1)医療側要因として初期治療の優劣の問題が、(2)賠償側要因として適正さを欠く経済的補償がみられた。また、(3)被害者側要因として被害者意識も含めた賠償性要因の関与が示唆された。

長期化予防、早期社会復帰には、(1)抜釘の必要性・時期、抜釘後の後療法期間・経過観察期間についてのエビデンスの確立、(2)後療法による回復経過・身体的な就労能力・後遺障害などの客観的評価法の研究、評価制度の検討、(3)交通外傷の特殊性から、最新の理論・技術による骨折治療、特に“整形外科外傷専門医”による初期治療を期待したい。

(本論文の要旨は第78回日本整形外科学会学術総会にて発表。)

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