縮小しながら発展する地域の創生
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115いま注目されているのはクリエイティング・シェアード・バリュー(Creating Shared Value:共有価値創造。以下CSV)という経営理念である。それは企業の利益と社会的課題の解決を両立させることによって社会貢献を目指すという概念であり、この実現のためには多くのステークホルダーや新たなパートナーとも価値を共有し、協働することで目的を達成しようとするものである。したがって、ここにも「閉じて開く」という運動をみることができる。そもそも企業は「閉じた」存在であるが、昨今は「開く」ための研究が盛んである。それは「企業の社会的役割」もしくは「社会的存在としての企業」の再評価であり、古くはピーター・ドラッカーがその概念を語り、近年ではマイケル・ポーターが『経済的価値と社会的価値を同時実現する~共通価値の戦略(*3)』においてCSVとして具体化したものである。古来、日本人の暮らしには“商業ネットワーク”による相互扶助経済が内包されていた。まさに綾部市のように、小商いのバリューチェーンが形成されて――相補的に――リスク分散を図りながら「三方良し」の社会(経済ではない)をつくり出していた。しかし今日では、経済のグローバル化にともなう物理的規模の拡大や国際的な緊張関係もあって、いつしか主要産業は国家的な役割を担うことになった。また一方では、多国籍企業という空間を超越した組織体が形成されて、彼らは大地から離脱していった。いずれにしても「開いて」いったのである。これをもって「商い」といえるのか、甚だ疑問である。そもそも産業と労働は暮らしの一部でもあるのだから、たとえグローバルに事業を展開していようとも地に足がついていなければならない。いまや産業界においても「閉

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